本を味わう

読むと忘れるので本の感想とか・・・

谷崎潤一郎「少年」

一言で言うなら“切り取った新鮮な作品”とでも言うのだろうか。


その場の風景を切り取ってしまうのなら写真が一番手っ取り早いだろう。
それを文章で書き連ねてしまった青臭くもとても刺激的な作品だ。

 

しかも、それはセルを何枚にも張り重ねした映画のように鮮やかで厚く
主人公の“少年の目”から見える世界そのままなのだ。

 

 

何故この作品だけにこんなにも異常な感覚を覚えてしまうのかと思ったが、
“臨場感が伝わってくる”作品の一つだからだろう。

 

宮崎駿監督作品の風を浴びる感覚”に少し似ている。
(自分が浮かんだのは“千と千尋の神隠し”だ。)

 

 

 

主人公の少年、普段は気弱なお坊ちゃん、強気な餓鬼大将、妾の姉

 

大方登場人物はこんな感じだろうか。

この作品では、心身の相反する様が現実世界と入り交じり、夢か現か分からなくなってくる。

 

普段は気弱な少年が、蛇がとぐろを巻いて、赤く舌をちろちろと出す様を見

餓鬼大将の媚びへつらい、坊ちゃんにされるが儘の姿。

それに加えて一番の幻想である西洋館に思いを馳せていく。

妾の姉が弾いているピアノの音が光の尾を引いて消えていく様

西洋館へは固く入りを禁じられていた。

 

 

 

虐められる主人公の少年の五感が働くさまが異常なまでに美しいのだ。

疑似SEXとも言える刺激に少年は操られ、傀儡となる悦びを知り、また自身も虐めることに呵責を持たなくなっていく。

 

 

何物にもなれる10代始めの所作は本人たちの世界のブレをどれだけ大きく広げたのだろうか。

 

SとMとを両者往来する少年たちの世界は羽が急な風に吹かれるように違う局面を迎えだす。

 

 

物語の後半になると、“少女”がいつも非道い目にあわされる役であることに気づくだろう。
そしてある日、閉じられた西洋館を開けようと少女をけしかけ、
夜の幻想とも幻惑ともつかない閉じた世界へ少年は足を踏み入れる。

 

 

 

天使のような裸体の美女に魅入り、置物とも生き物ともつかない蛇の陰におびえ
西洋館の名に相応しいプリズムの光と影が幻想を見事に表している。

 

そして彼は女性の報復に流される。
燐が走り、手足を縛られ、生きる燭台と化して少年たちは屈服する。

鳥の糞のやうに溶けだした蝋の流れは、両眼を縫ひ、唇を塞いで頤の先からぼたぼたと膝の上に落ち―

 

涙よりも熱い蝋に目を塞がれた少年は瞼を通した先に燈火を見る。
視力を奪われた代わりに香水の匂いが“降って”くるのだ。

 

 

そして少女のピアノは不思議な響きとなって耳に聞こえ、ただぼぉっと座っているだけだった。

 

 

洗脳とも拷問とも捉えられる仕打ちが書き連ねた文字に浮かんでは消えていく。
ただ、あの後屈服した少年たちは悦んで彼女の狗となり跪くのだ。
蛇のように獲物を丸のみにするように少年たちを飲み込む彼女。

 

 

個人的には蛇というより蟷螂のイメージが出てきたのだが。

 

少年

少年